大阪市北区長柄に建つ3軒長屋の計画です。敷地が接道する道路の対面側にはかつて洪水を防ぎながら水運を確保した明治40年に作られた淀川毛馬第一閘門があります。この閘門は国の重要文化財に指定されており、煉瓦作りの産業遺産としてこの淀川河川敷一帯に広がる公園の景観の特徴を形成しています。調査の際に時を経たこの美しい産業遺産を目にし、この煉瓦の質感を少しでもこの殺風景な街へ滲み出させることができないかということから構想を始めました。そのため閘門からサンプリングしたレンガ調のタイルを基調に黒系の鉄とコンクリートで外観を構成することから始めました。
内部は1階をガレージ、2階をLDK、3階を寝室としています。一見すると外観からは3軒の長屋が連続して並んでいるように見えますが、内部は3軒の住宅が螺旋状に絡み合うように階数ごとに捩れるように構成しています。これは角地の特性を活かし、各住戸が階数ごとに異なる方角の風景を内部に取り込むことを意図しており、さらに各住戸の階段をずらすことで縦移動しかない狭い長屋ではなく、捩れることで広さや奥行きを感じることができるのではないかと考えました。専用の屋上からは淀川の公園や花火を望むことができ、面積以上の生活空間の確保を可能としています。各住戸が折り重なる構成のため、構造はRC壁式構造かつヴォイドスラブを採用しており、内部空間には梁形状を落さず、防音、耐火性能を高めるといった対策を講じています。こうして3戸の住宅が絡みあうようにできたこの建物が重要文化財である毛馬閘門が作り出す美しいレンガの風景をこの街に広げる呼び水になればと望みを込めています。
撮影/Sasakura Yohei